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【活躍するOB/OG】米国高校留学から30年を振り返って

更新日:6月21日

 先日、30年前にアメリカへ高校生交換留学されたハースト尚美さんから、久しぶりにEILに連絡をいただきました。留学当時から働いている職員がまだいたこともあり、再び繋がったご縁を職員一同嬉しく思っています。折角の機会となりましたので、イギリス人と結婚されて、現在はフランスで生活されているハーストさんに、留学とその後の歩みを振り返っていただきました。


 交換留学の体験を足掛かりとして、世界を広げてこられたハーストさんのこれまでの歩みは、まさにEILが目指す国際交流の精神そのものです。素晴らしい文章をお寄せいただきましたので、ぜひお楽しみください。

 

 国際交流って何だろう、高校留学って何だろう、ホームステイやホストファミリーって何だろう、どうやったら自分もそれに参加できるのだろう…。そう思って神戸からEILを訪ねたのが約30年前。私が高校1年生の時でした。その時、自分の人生がこれほど国際的で豊かなものになるとは、想像もしていませんでした。


 1988年にEILの米国高校留学プログラムに参加し、また帰国後は日本でホストファミリーとしてフランスからの学生をホームステイに受け入れました。そして、その後何十年間にも渡り、その時に出会った人々とはずっと楽しい交友を続けてきました。また、高校留学で身につけた「英語力」や「国際感覚」のお陰で、国際色豊かな慶応大学SFCで学んだり、ロンドン政治経済学院に留学したり、都内の世界的な米系投資銀行に就職して、ニューヨークのウォール街にある本社で研修を受けたり、ロンドンの金融街シティーで働いたり、イギリス人と結婚したり、アメリカ・イギリス・フランスに移住したりと、私の世界は驚くほど広がりました。


高校留学で学んだことが人生の原点

 「外国人のお友達が欲しい」「そのために英語を話せるようになりたい」こんな単純な気持ちからすべてが始まりました。私が派遣されたのは、アメリカ東海岸にあるマサチューセッツ州の中心に位置するアガワムという町で、州都のボストンからは車で約2時間、人口が1万人にも満たない小さな町でした。周りには牛の放牧地や穀物の畑が広がっていました。インターネットも携帯電話も普及していない当時、高額の国際電話だけが、日本との唯一のコミュニケーション手段でした。


 留学中は、お友達にも恵まれ、ホストファミリーにもよくしてもらいましたが、必ずしもいつも楽しかったわけではありません。当然のことながら、辛い時もありました。しかし驚いたことに、困った時、窮地に陥った時というのは、必ず誰かが助けてくれるものなのです。私のことをあまり知らない人でさえ、救いの手を差し伸べてくれるのです!日本で家族に守られて生きていた時には、全く気付かないことでした。これは、高校留学で学んだ大切な教訓の一つで、今でも自分の信念の一つとして根付いています。そのお陰で、何があってもあまり不安を感じずに、いつでも新しい世界に飛び込んでいったり、新しいことにチャレンジする勇気が備わりました。


 もうひとつ学んだ大切なことは、違う国籍でも同じ考えの人もいれば、同じ国籍でも違う考えの人もいるということ。そして、たとえ違う意見を持っていたとしても、お互いに仲良く共存できる、ということです。この教訓のお陰で、帰国後も国際色あふれる職場や学校において、日常起こる様々な文化摩擦の解消に貢献することができ、皆と共に楽しい環境を創ってこられたと思っています。また、大人になってから分かったことは、異文化において個人レベルで仲良くすること、そしてお互いの理解を深めるということの延長線上には、国家レベルでの国際関係があり、これがまさに世界平和のベースになるのだということです。


留学当時(1988~1989年)の写真と、親友ケトゥラとの再会時(2009年)の写真



異文化の生活体験共有(ホームステイ)で文化の壁を乗り越える

 私にとってホームステイとは何だったのか。一言でいうならば、それは日本で学んだ「常識」を打ち破り、自分の中にあった「文化の壁」を乗り越えるための最高のトレーニングの場だったといえるでしょう。アメリカ人がどのような考えを持ち、どのように感じ、どのように人と接し、どのような行動を起こすのか、ということを沢山学びました。日本の常識をくつがえす出来事が沢山ありましたが、この異文化の常識を「受け入れる」「飲み込む」という覚悟は、ホームステイという環境がなければ、できなかったことだと思っています。


 日本に帰国した後、今度はフランス人の学生をホームステイに招き入れました。その時も、アメリカでのホームステイの経験を活かして、留学生を「お客様」としてではなく、家族の一人として迎え入れ、生の家族生活を紹介しようと心掛けました。


 本当に腹を割った話し合いや、時にはぶつかり合いもありましたが、今振り返るとそれらすべてが「異文化理解」につながっており、またそれがとても大切だったということが分かります。もし若い頃に、こうやって異文化にぶつかっていなければ、その後世界各国で生き抜くための「サバイバル力」は、決して養われなかったことでしょう。また、当時の友人たちとこれまで何十年もの年月を隔てて友情を保ち続けられたのも、このような経験があったからだと思います。さらに、異文化を深く理解することは、国際結婚の成功にも大きく貢献していると言えます。このような経験のお陰で、異文化背景をもつ相手をより深く理解し、受け入れることができたのだと思います。この「異文化」を乗り越える勇気こそが、国や文化を超えた「深い友情」を可能にしているのだと思います。


受け入れしたデルフィーヌは、その後子どもたちを連れて再来日し、

両親はデルフィーヌの子どもたちを孫のように思っています。



異文化体験によって得られたもの、それは「勇気」

 留学やホームステイを通して「英語力」や「国際感覚」が身につくのは想像がつきますが、それが実際にどう人生に影響するのでしょうか。冒頭にも書いた通り、高校留学から戻ったのち、一般受験をして慶応大学SFCの第一期生として入学し、卒業後は都内の米系投資銀行に入社しました。その後、イギリス人のパートナーと出会い、アメリカ西海岸に渡ったのちに、ロンドンで留学・就職することとなりました。もちろん各段階は容易なものではありませんでしたが、高校留学中に培った「英語力」「国際感覚」が、大いに役立ちました。


 しかし、こういった表面的な達成や成果も大切ですが、異文化体験によって私はそれ以上に大切なものを得たと思っています。それは「新たな環境に挑む勇気」や「何事も恐れない勇気」でした。この「勇気」こそが、私の人生の原動力であり、私の人生を形作ってきたと言えます。


 約10年前になりますが、音楽家であるデイビッドと私は、二人の長年の夢だったフランス移住を実現しました。しかし、この時もまさにゼロからのスタートでした。最初は、二人ともフランス語ができず、周りに知り合いもなく、住むところも決まっておらず、仕事すら決まっていませんでした。しかし、一歩一歩言葉を学び、社会に馴染み、遂にはフランス語でビジネスを立ち上げるまでに至りました。若い頃に日本でホームステイをし、働いた経験を持つデイビッド。共通して「新しいことに挑む勇気」があったお陰で、我々二人は、共にチャレンジを乗り越え、沢山の夢を叶えてこられたのだと思います。


日本だけでなく世界が人生の舞台

 これまですべての経験を振り返えった時、高校留学やホームステイで私の人生がどう変わったのかと考えることがあります。色々な答えが考えられますが、最大のパラダイムシフトは、あらゆる面での制約が溶け去り、人生が想像以上に「自由」になったということではないでしょうか。言い換えるならば、住むところも日本でなくてもよい、勉強するところも日本でなくてもよい、働くのも日本の会社でなくてもよい、情報を得る手段も日本語でなくてもよい、人生のパートナーも日本人でなくてもよい…。そう、私の人生の中で「日本」という枠や制約が外れ、選択肢の幅が一気に広がったのです。こんなことは、高校1年生の時には全く考えてもいなかったことです。異文化体験を通して得た「英語力」や「勇気」によって、私は人生の大きな「自由」を得たといえるでしょう。まさに、人生の舞台が「日本」だけではなく「世界」に広がったのです。


 今では、アメリカ留学時代のホストファミリーをはじめ、高校の同級生やラテン語の先生、またフランスから来た留学生とも常に連絡を取り合い、東京、ロンドン、パリ、サン・フランシスコ、南仏など世界各地で再会を実現しています。またソーシャルメディアの発達とともに、以前よりもさらに身近に連絡がとれ、24時間いつでも「今」起きていることを共有でき、まるで同じ町に住んでいるような錯覚すら覚えます。世界中での連帯感、これも時空間を超えた「自由」の一つかもしれません。


 最後に、今「高校留学をしよう」「ホームステイをしよう」「ホストファミリーになろう」と思っている皆さんには、現時点では想像もできない驚くほどエキサイティングな未来が待っているということを、改めてお伝えしたいと思います。国際化がますます進む世界において、是非皆さんにも国際交流を通して、思う存分自由に、自分なりの楽しい人生を切り拓いていってほしいと思っています。勇気をもって「Can-Do! やればできる!」の精神で、頑張っていって下さい。


ホストシスター、エリザベスとサン・フランシスコにて(2019年)

(文章・写真 1988年アメリカ派遣ハースト尚美さん


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​EILの正式名称は「Experiment in Intertnational Living」このサイトは、EILのプログラムを通じて国際交流体験をした人たちを「Experimenters」と称し、その体験やその後にどう活かされたかを紹介するEILのウェブマガジンです。

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